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ベートーヴェンは凄い!全交響曲連続演奏会2007

夏を過ぎた頃だったろうか、「今年はフルマラソンするかも・・・」という噂がどこからともなく静かに流れ始めたのは・・・・。
「フルマラソン?うちは合唱団ですけど。。。」
そう、フルマラソンとはベートーヴェンの交響曲を1番から9番まで一晩で演奏するということ。
1曲だって大変なベートーヴェンを、しかも大晦日に、小林研一郎先生が!!!
そしてそのフィナーレに私たち武蔵野合唱団を指名してくださったのだ。

「本当なの?」「本当にやるの?」「まさかね。」「嘘でしょう・・・」
考えてもみてください。1音ずつに、1フレーズ毎に、1曲で一生分くらいのエネルギーを注ぎ込んで演奏なさる小林先生が、9曲全部まって振ったら、きっと途中で力尽きて倒れてしまうよ・・・。
人間のやることじゃないっ。
私たちは大晦日に家を空けられるのか、という物理的な問題も加わって嬉しさよりも不安で一杯の秋を過ごした。

時は流れ、12月30日。デマでも幻でもなく現実のこととして、GPの日を迎えた。
場所は音楽の殿堂、東京文化会館。
オーケストラは「いわきオーケストラ」、先生の出身地「いわき」のことではない、この企画を始められた岩城宏之氏に因んで付けられた名前らしい。
コンマスの麻呂様こと篠崎さんを初め、全員がN響その他で活躍される日本のトップアーティストの方々である。
私たちの集合より前に、オーケストラは1〜8番のリハーサルをしており、小林先生はもちろん奏者の方々も疲労はピークと思われた。
それなのに、もう何時間も前から弾き続けているとはとても思えないような、クオリティの高さに私たちは思わず息を飲んだ。

小林先生といわきオーケストラとはもちろん初対面。
私たちにとっては馴染みのある先生の音楽、先生の創造する第九の世界。「これだから先生の第九は特別なんだ!」という思い入れのある小林節も、言い換えればいわきオケの方々にとっては未知なる世界である。
先生とオーケストラとの一期一会の闘いが始まった。それこそ第九の歌詞ではないが「火花の散るような」熱い魂のぶつかり合いであった。
その場に居合わせ、ぞくぞくするような感動を味わった。こんな凄い方たちと共演させていただける!!という幸せを噛みしめながら、1〜3楽章を聴き、腹の底から、力の限り、心の全てを4楽章に込めて歌った。

翌日(当日)、集合時間は夜の10:00だが、団員の中には2:00の開演から客席にいた人も多い。かく言う私もその一人。
1〜8番までを聴いて9番を歌う、まさに「フルマラソン」というわけだ。途中で休憩をはさむとは言え延べ11時間に及ぶコンサート。
ペース配分を考えまずは軽く行くのかと思ったら大間違い、先生の息づかい、したたる汗、静かな祈り、慟哭、天にも届く叫び、深い悲しみ、憧憬、炸裂する喜び・・・

第1番第1楽章からsempre小林パワーフル回転なのであった。また、見事にそれに応えるオーケストラ。
両者の白熱した掛け合いと融合に、いつしか客席も引き込まれ、身を乗り出し、一緒に弾き、歌い、指揮をする。
またそこから、渦のようにパワーが生まれて来た。1曲毎に鳴り止まぬ拍手とスタンディングオベーションである。
真冬だと言うのに、館内の温度は相当上がっていたと思う。

さて、私たちの歌は・・・なんていうつまらないことを言うのはよそう。
この曲のこの部分がどうだった、なんていう感想はこの際どうでも良い。
1番から9番までで作る1つの世界。弾き手と聴き手が一体となって何かとてつもなく大きな事業を成し遂げたのだと言って良い。
その歯車に私たちがなれたのだから、それで良い。
小林先生は倒れるどころか、フィナーレに向かう程に力を増して来たようだった。

数日後、先生が静かに言われた。「僕は朝まで皆と飲んで帰り、昼頃になって目が覚めると、また1番〜9番まで振ってもいいくらいに元気なのです。すごい経験だった・・・ベートーヴェンが僕に力をくれたのです。」
「今年もお引き受けしようと思います。」

こうして、武蔵野合唱団の今年の年越しも決まりました。

武蔵野あらかると